自治体インタビュー

三重県教育委員会事務局

三重県教育委員会事務局 生徒指導・健康教育室 生徒指導グループ
主査   : 水守 智士様(当時)
充指導主事: 奥田 隆行様(当時)
導入の目的 子どもたちに携帯電話を持たせることが否定的な中、「いずれ子どもたちはインターネットと付き合わなければいけない」との方針を受け、実験的な実態調査や関係者向けの教育啓発を導入。
導入の決め手 一番手間のかかる作業が任せられ、削除対応などの実務的な支援が充実していること。
得られた効果 ネットいじめの認知率も下がり、ネットパトロールで見つかる問題のある書き込みの件数も減少した。

三重県教育委員会事務局 様 インタビュー

三重県教育委員会では、青少年インターネット環境整備法が制定された平成20年度に生徒指導の一環として、学校非公式サイトの実態調査業務を開始。
その取り組みの歴史の長さは全国自治体の中でもトップクラスといえる。またその間、ネットパトロールの実務作業は一貫して専門企業に委託している。
三重県教育委員会がこの問題に取り組むことになった背景や、専門企業に業務を委託する利点、取り組みの成果と今後の見通しについて、担当者に詳しくお聞きした。

ケータイ・ネット対策事業への取り組み経緯

三重県内でも平成19年頃には、携帯電話によるインターネットの利用に関して、子どもたちに何かトラブルが起きていて、今後増えていきそうだという学校現場としての実感がありました。また、僅かではありますが「ネットいじめ」の認知率は全国平均より高い状況でした。

そのような状況の中、平成20年6月にはいわゆる青少年インターネット環境整備法が制定されました。また文部科学省からは同年の夏に、学校での携帯電話の取り扱い方針に関する通知も出ています。

ですが当時、大人たちの間には子どもたちにインターネットとの付き合い方をどう教えるのか、まだかなりの迷いがあったと思います。結果、地域によって「持たせない」か「持たせることをただ黙認」かの、両極端の対応が多かったのではないでしょうか。

しかし、三重県教育委員会では、「いずれ子どもたちはインターネットと付き合わなければいけない」「既に学校にも実在している問題として正面から向き合おう」という当時の教育長の方針もあり、平成20年度にまずは単年度の事業として、実験的な実態調査や関係者向けの教育啓発に取り組み始めました。
充指導主事: 奥田 隆行様

ケータイ・ネット対策事業の5つの柱

三重県の取り組みは、平成22年度まで「学校非公式サイト対策推進事業」という名称だったこともあり、外から見ると掲示板などのネット検索・監視部分の印象が強いかもしれませんが、事業の開始当時から、ネットパトロールだけでなく、トラブル予防教育や具体的な対処・指導の部分との連携を強く意識して仕組みづくりを進めてきました。

事業は大きく5つの柱で構成されています。保護者や児童生徒を対象に機器の所持状況や利用時間などを聞くアンケートと、ネットパトロールを通じた「実態把握・課題整理」はもちろん、トラブル予防的な子どもたちへの「情報モラル・リスク教育」、大人は気づきにくいケータイ・ネット特有の問題を知ってもらうための「保護者啓発」といった地道な取り組みもとても大切です。

このうち保護者啓発については、専門家が講師をするだけでなく、保護者から保護者に伝えてもらうことが有効と考え、少し詳しい保護者としてのネット啓発リーダーを養成して、小中学校やPTAの啓発講座に出向いてもらっています。

またパトロールで発見された問題のある書き込みは、速やかに削除依頼の対応をするなど「被害リスクの最小化」が必要になります。さらには、ネット上に現れた不適切な書き込みという問題だけに目を奪われるのではなく、その背景となる子ども同士の人間関係や、子どもの日常生活をしっかりと把握した上で、再発防止のための「事案に対する具体的対応・指導」が学校、そして家庭で確実に行われることが大切と考えています。

縦割りの動き方になりがちな行政組織の中で、これら複数の取り組み要素を一つの流れとして連携的に機能させていくことには、かなりの困難が予想されました。そこで教育委員会の生徒指導・健康教育室が事務局となって、対策事業の実行委員会というものを立ち上げました。ここには学校教育担当部署・人権教育部署はもちろん、子ども関連の知事部局や県警本部、PTAなどにも参加してもらい、さらに市町村教育委員会とうまく連携をとることが出来るようになりました。

最近では、この実行委員会を起点として、携帯電話事業者やサイト運営事業者との連携協力も実現していますし、複数年度にまたがる事業として年度ごとに成果と課題を見直し、改善や新規施策につなげるための場としても重要な役割を果たしています。

ネット検索の最初の役割は、学校現場の先生方に気づきを与えること

なぜネット検索をするのか、色々な意味が考えられると思います。三重県教育委員会としては学校現場に検索の結果レポートを示すことで、現場の先生方に気づきを持ってもらうことが、事業開始当初の目的の一つでした。定量的に説明するのは難しいのですが、効果は大きかったと考えているところです。

他県では「ネットパトロール」の語感からか、子どもたちの問題書き込みをとにかく見つけ出して、それをやめさせるという、ある意味ではキリがない、または対処療法的な作業だと思われているところもあるようです。しかし、そこで終わったのでは教育委員会が関わっている意味が無く、日常的な生徒指導の中にインターネット利用が引き起こす問題への対処を、どう組み込んでいくのかを考えなければいけません。

当初は、そもそもインターネットのことは得意ではなく、総論としては理解しても自分の学校でも問題が起きているのだという実感が持てないという現場の先生が多数を占めました。そこで、網羅的にネット検索をして学校ごとにまとめた情報を先生方に見てもらい、学校ごとの事実・実状を知らせるわけです。困っている子どもが居る、現実の問題、自分の職場の問題だということに一度気づいてもらえれば、元々先生たちは子どもや学校を愛していますから、本気になって動いてくれます。

先生向けには、子どもたちのインターネット利用問題全般に関する研修らしい研修というのは、実はそれほど頻繁には実施していません。しかし、児童生徒向けの指導のポイントや削除依頼の進め方のような、トラブル対処の具体的な方法については、手引き書を作成して全教員に配布しています。ネットパトロールの結果を提供して気づきを与えたことで、それを見ながらでも熱心に取り組んでもらえるようになりました。もし途中で何か分からないことがあれば県教委の方に問い合わせが来ますから、一緒に、一件ずつ問題を解決してゆく、この3年間ほどはそんな形で取り組んでいます。

ネット検索結果への対処の仕組みづくりが重要

ケータイ・ネット対策事業の実行委員会の中に、ネット対策チームというものを組織しています。ネット検索などで見つかった問題のある書き込みのうち、対処が難しいものについて学校や市町の教育委員会に出向き、具体的な対応の支援をするための専門性の高いチームです。少なくとも我々は、生徒指導や教育の一環としてネットパトロールを位置づけていますから、出てきた結果に対応する部分のワークフローと支援体制を予めしっかりと準備しておかないと、時間と予算をかけて検索した意味がなくなってしまいます。

実行委員会のネット対策チームは、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、生徒指導特別指導員といったメンバーで構成されています。しかし、実際にはこの事業のために新しく人を集めてきたわけではありません。もともと、学校の日常的な運営に関わってきたメンバーに、インターネット利用に関わる問題にも追加で対応してもらうようにしたというのが本当のところです。

専門企業に業務を委託する意味

県が専門企業に委託して実施されたネット検索の結果は、学校単位にまとめ、分析を加えた上で、県から市・町の教育委員会に提供しています。
これは非常に喜ばれています。

学校の先生が自分でネット検索することはもちろん可能です。もしかしたら、専門企業に依頼するよりも、きめの細かさや巡回の頻度自体は高くなるかもしれません。ですが、先生方は忙しく、広いインターネットの世界をくまなく見て回るほどの時間を割くのは現実的ではありません。専門企業に業務を依頼していて特に助かることは、最初に「大体のアタリ」をつける部分、一番手間のかかる作業が任せられることです。自分の学校の児童生徒が最近どんなサイトに出入りしているのか、その傾向さえ専門企業から教えてもらえれば、あとは狭い範囲で済みますから、先生自身の手でも見て回ることができます。

また、学校を起点にして網羅的に押さえていくという点についても、やはりノウハウの違いがあります。たとえば県の職員でも、時間さえかければ、かなりの数の問題書き込みを見つけることは出来ますが、複雑な階層構造を持つ掲示板サイトのようなものも含め、特定の地域に関係するものを偏りなくチェックしていくことは相当に難しい作業です。

実は、外部の企業への委託を始めるにあたっては、初年度の正式調達手続き前の時点で複数の企業から話を聞いてみました。しかし、ネットパトロールという業務の専門企業が、こちらが思っていたよりも少なかった。単なる人海戦術や24時間対応というだけが売り物なのであれば、県の職員が作業をするのと本質的な違いはありません。また、同じ専門企業の中でも業務効率化のためのアプローチにはいろいろな方法があるということも分かり、とても勉強になりました。

さらにもう一つ、これは元々あまり想定していなかったのですが「被害リスクの最小化」のための書き込み内容の削除対応についての実務的な支援という部分。ここも、県として専門企業と付き合っている大きな利点だと考えています。掲示板やブログ上に問題のある書き込みが見つかり、すぐに本人が削除できる場合は良いですが、時には運営事業者に削除要請をすべき事案が出てきます。ところが、削除要請の作業というのは、相手の運営事業者によって所定の手続きや連絡方法が少しずつ違います。中にはそもそも非協力的なところもあり、慣れていないとネット上でさらにそのトラブルが注目されてしまうなど、子どもたちへの二次的な被害につながる場合もあるので、学校や市・町、県として負担感がとても大きい作業になります。

業務を委託している専門企業としてピットクルーの担当者には、この部分についてはずいぶんと親身に相談に乗ってもらい、柔軟かつ実際的な支援もしてもらっています。最近では、その担当者がうまく仲立ちしてくれた結果、特に迅速に応じてくれるようになった大手のサイト運営事業者もありますから、本当に助かっています。

取り組みの成果と今後の展開

本格的に事業が始まって、まもなく丸3年が経過しようとしています。おかげさまで、教育・調査の両面について、それなりにバランスよく進めてくることが出来たと考えています。また、ネットいじめの認知率も下がり、ネットパトロールで見つかる問題のある書き込みの件数も減りつつあります。その一部は見えにくいサイトに潜伏してしまったという可能性もありますが、全体的には先生が見ているかもしれないと感じさせているようで、子どもたちの不適切なインターネット利用に対して一定の抑止力にはなっていると考えています。また、先生方からも自分たちの受け持つ学校に関連してインターネット上で何が起きているか知ることで、自信を持って指導することができるようになったという声が聞かれるようになりました。

ただし、このケータイ・ネット問題対策事業は、県として未来永劫、継続する予定のものではありません。インターネットがあまりに短期間で社会に普及してしまったこともあって、学校はもちろん、県内各自治体の教育委員会で見ても、教育やトラブル対応のレベルにはまだまだバラつきが大きい。そこで、当面軌道に乗るまでは県がまとめて基本的な仕組みづくりなどを担当し、また情報の共有や、現場の対処能力の向上を支援しているという位置づけです。実際、県として本事業にかけている予算額は年々着実に減らしています。そうした前提はありつつも、子どもたちのインターネット利用環境はまだまだ大きな変化が続いていることも事実です。たとえば、スマートフォンや携帯ゲーム機など、これまで以上に家庭内に増えていくだろうパーソナル性の高いインターネット機器との付き合い方を、子どもたちにどう教えていくのか考えていかなければなりません。

また、これまではネット検索の対象も掲示板やブログなど、原則として誰でも自由にアクセス可能なサイトに限ってきました。ところが最近、会員登録を必要するようなコミュニティサイトの利用が増えています。そのような変化についても適切に対応していく必要があり、県としてはそう簡単に全面的には手が離せないのかもしれません。市・町への業務の移管は既定の路線ではありますが、同時に解決しなければいけない課題はまだ多いと考えています。実行委員会に参加してくれている自治体側の関係者や事業者の協力を得ながら、引き続き前向きに取り組みたいと思います。
主査   : 水守 智士様
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